笑っててくれるだけでいい
長屋宏和の復帰記念パーティー(壮行会)だった。
いつも現場でお世話になってるサーキット実況アナさんが司会進行を務め、パーティーを盛り上げた。いっぱい集まった人々は、みんな長屋にあたたかいお祝いの言葉を送った。
でも、「まだ、今じゃなくてもいいんじゃないか。せっかく奇跡的に助かった命なんだから…」といった意味のメッセージを送った人もいた。ここでは仮にAさんとする。
それに対し長屋も、心配を十分に考慮し、精いっぱい安全に気を配り、自分も他人も傷つけることのないようにしたいと抱負を語った。
2年前のF1サポートイベント決勝日。スプーンで事故が起き、長屋のマシンはドカンドカンとバウンドしながら10回転くらい側転し、フェンスまで飛んで落っこちた。
恐ろしいことに現場は白いシートで隠され、長いこと救出活動が続いた。
やっとのことで鈴鹿サーキットの医務室に長屋が運ばれると、Aさんはバイクにまたがって医務室にすっ飛んでいった。そこでAさんは、呼吸停止状態の長屋を見た。
西パドックに帰ってきたAさんから彼の様子を聞いて、あたしも胸がつぶれそうになった。
「最初は足が紫色してたけど、処置をしてからちゃんと血が通って、今は普通の肌色に戻ってます…」
Aさんは、そんなようなことを言っていた。
あのとき長屋は、もう少しで手の届かないところに行ってしまいそうだったのを、すんでのところでこっち側に戻ってきたんだ。
そのときからAさんは、まだICUで無数のチューブにつながれてる長屋も、一般病棟には戻ったものの横たわって天井を見てるしかなかった頃の長屋も見ている。
だから、復帰を急ぎすぎるな、無理だけはするな…と心配してしまう気持ちが、ヒリヒリとわかる。
あたしも、長屋がまだ1日中天井を見てるだけだった頃に見舞いに行ったことを思い出すと、信じられない思いがする。
そのとき、ノドにはまだ穴が開いてて、長屋は筋肉が落ちてすっかり細くなった左腕をかすかに振っていた。
この状態から、一体どれだけきついリハビリを頑張れば、なんとか動き回れるようになるんだろう…と思ったら、クラクラして気が遠くなった。
でも長屋は、実際に必死でリハビリを頑張り、今は車椅子にしっかり座って、力強く自分でこげるようになった。その上、頚損用カートにも乗れるようになった。こんなに元気になった姿を、あのときはとても想像できなかったよ。
だから、長屋。
今はそうやって元気に笑っててくれるだけで、あたしはとりあえず十分だ。
しかし、他人のあたしがどう思うかなどとは関係なく、長屋本人はこれからずっと、死ぬまで自分を生きなければならない。当然、ただ笑ってるだけというわけにはいかない。
せっかく拾った命だから、障害をかかえた身だから、そして「事故前」にはもう引き返せないからこそ、人生を適当にゆるく生きるなんて、してられないよな…。
これからも、全力投球ですべてに最善を尽くし、行きたい方向にとことん突き進もうとするんだろう。
その心意気はいつでも応援するし、レースやるならできるだけ見に行くよ。
でも、ときどきは、まだ今じゃなくても…と思ってる人や、笑っててくれるだけでいいよ、という人もいることを思い出してくれると、ちょっとうれしい。
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コメント
人間だからさ、やっぱ現実は笑ってばかりもいられない。
でもそんな時も、自分をよしこさんのように受止めてくれる人達が
いるということを、「生きて」どんなに心強く嬉しく感じてるか
何とか伝えたいと思っているよね?きっと。
笑顔って、精一杯の感謝の表現の1つだね。。。
投稿: ネコ | 2004.12.02 21:55
>ネコさん
まぁね。人間だから、キレイ事だけじゃないし、これからも難しいことがいっぱいあるだろうし。
事故後初めてのレースに出てみました、よかったよかった…では終わらないから、人生は。物語と違って。
投稿: よ。 | 2004.12.02 23:24